癒し憩い画像データベース宣言
現在、日本ではがんに関する情報やその対策が社会問題となっています。国民は生涯のうちに、2人に1人は“がん”に罹患し、3人に1人は残念ながら、亡くなってしまいます。一方、医学と医療の進歩によって、多くの患者さんが、長期にわたり生存しておられますが、再発や別のがんが発症することに、不安を感じています。そしてこれらの不安や諸々の心配は、ご家族や職場での不安ともなっています。
このような社会背景のもと、2006年6月に「がん対策基本法案」が与野党を超えた議員立法で成立し、2007年4月1日から施行されました。このなかで国及び地方公共団体は、がん医療に関する情報の収集及び提供を行う体制を整備するために必要な施策を講ずるとともに、がん患者さん及びそのご家族に対する相談支援等を推進するために必要な施策を講ずるものとされています。また、がん患者さんの療養生活の質の維持向上のために必要な施策を講ずることも明文化されました。一方、わが国における「第3次対がん10か年総合戦略」でも、がん患者さん等の生活の質(QOL)の向上、がん患者さんの苦しみの軽減を目指す緩和医療の推進、末期がん患者さんに対する精神面の支援の必要性が述べられています。とくに、がん患者さんやそのご家族の生活を支援する情報の提供、がんの患者さんやご家族のQuality of Lifeの向上をはかるネットワークの構築が不可欠です。このネットワークの構築には、種々の活動がありますが、私たちは癒しや憩いとなる画像を通して、ネットワークの構築に参画いたしたいと存じます。
ところで、病む人の治療、とくに精神にやすらぎを与え、心を癒す方法のひとつとして、ライフレビュー(Life Review)法があげられます。これは幼年期、学童期、青年期、成人期、現在という年代順に人生を回想してゆく方法で、1980年代から現在まで欧米やわが国で、研究されています。その目的は、治療者と一緒に人生の全体像を回想し、その人の人生を概観することにより自我の統合を高めることにあります。その人が歩んできた人生を聴きながら共に回想する場合、幼少時の写真、父母や家族との懐かしい写真、修学旅行など親しい友との写真などを見ながら話し合うと、その効果は増します。そして当時の思い出、社会での出来事などが、浮かんで来ます。その間、心身の痛み、いろいろな悩みや心配事が、少しは軽くなるものです。人は喜怒哀楽、それぞれの思い出、それぞれの原風景を抱えながら、旅をしています。「癒し憩い画像データベース」が、皆さんのライフレビュー(Life Review)に、少しでもお役に立つよう、いろいろな種類の多くの静止画や動画、音楽を入れた画像などをインターネットで発信してきました。今後とも画像の量を増やし、質の向上に邁進いたします。
以上の経緯を踏まえ、がん対策基本法が施行された今年、私たちは、がん患者さん、そのご家族、さらに医療従事者などのQOLの向上に寄与することを目的として、「癒し憩い画像データベース」の構築を進め続けることを宣言いたします。今後とも多くのボランティア団体や趣意を同じくする諸団体などと協力しながら、広く公益の増進に貢献したいと思います。そして我が国のみならず世界各国の支援を得まして、近い将来には、世界に貢献できる「癒し憩い画像データベース」の構築を目指します。
2007年10月10日
独立行政法人国立病院機構九州がんセンター
院長(現 名誉院長) 牛尾 恭輔